アカボシゴマダラ幼虫は乾燥に強い

前回の記事でも軽く触れたのですが、「競合が心配される」と言われることの多いアカボシゴマダラゴマダラチョウは生息環境が微妙に異なっているように思います。

科学的な調査による具体的な数値の比較はできていないのですが、乾燥しがちな林縁や、都会的な環境の孤立緑地のような場所など、アカボシゴマダラの幼虫は本当にどこでも育つという感じです。


ここは小平市内の玉川上水からしばらく北へ進んだところ。
一応、隣は畑ですが、かなり車通りが多い道路の脇


誰かが種を運んだのか(電柱に止まった鳥?)、実生エノキが少し育っています。


こんな場所でも見つかるアカボシゴマダラ幼虫

幼虫が育っていることはもちろんですが、ここまで成虫がやってきて産卵したであろうことに驚きます

ゴマダラチョウもわりと都会的な蝶ですが、このアカボシゴマダラに比べたらもう少し自然度の高い場所を好んでいるように思います。


こちらは脱皮直前。


こんなに大きく育った幼虫も。


冬を前にして、育ちすぎてしまった(何度も脱皮をした)幼虫は、越冬に失敗するケースが多いようです。

さて、関東を中心にやたら増えていると言われる移入種のアカボシゴマダラ。
「駆除すべき」との声もありますが、それよりもアカボシゴマダラが増えやすい環境になっている=乾燥しがち / 自然度の低い緑地になっているという点を何とかすべきなのかも
今の関東では多少の駆除を行ったとしても、増えていける環境が整いすぎていると思います。


一点不思議なのは、アカボシゴマダラがなぜそんな環境に強いのかということです。
関東で増えつつある移入種アカボシゴマダラは中国原産の可能性が高いといわれていますが、国内では奄美大島に生息しています。
奄美大島はかなり湿度の高い環境のはず。
国外のアカボシゴマダラ亜種は乾燥に強いのか、奄美大島亜種も実は都会に適応できるようなタイプなのか、気になります。

玉川上水でゴマダラチョウ幼虫を探す

ゴマダラチョウの幼虫はエノキの葉を食べて成長していきますが、冬になると木の根元へ降りてきて、落ち葉の裏にくっついて越冬します。

近い種であるオオムラサキアカボシゴマダラもやはりエノキを食樹としますが、それぞれ微妙に生息環境が違っているように思います。

オオムラサキ:やや自然度の高い林内 エノキの大木
ゴマダラチョウ:エノキの大木 まれに林縁のエノキ若木
アカボシゴマダラ:林縁や孤立緑地のエノキ若木 まれにエノキ大木

今回は玉川上水で、エノキ大木の根元で越冬するゴマダラチョウ幼虫を探してみます。

見つけやすい条件としては、大木エノキの根元が分かれていて、落ち葉がたまりやすい状態になっていること


たとえばこんなエノキ。


こんな風に落ち葉がたまっている場所をごそごそと探してみます。


つぎつぎに落ち葉をめくって見ていくと...


いた!ゴマちゃん


条件が良い場所では、一か所に数頭見つかることもあります
また、一枚の葉に2~3匹くっついていることもあります。これはなぜなんだろうか。
活発に活動している時期ならば、近くに別の個体が来るのを嫌がる感じがあるのですが...


ちょいと失礼して葉っぱを折り曲げると、

こんにちは!(かわいい。)
ぱっちりした元気な顔に見えますが、ほぼ休眠モードのはず。
邪魔してごめんね。


別の場所でもどんどん見つかる。


ふかふかゴマちゃん。

2016年現在、春から秋にかけて、アカボシゴマダラ成虫の姿が目立ったのに対し、ゴマダラチョウ成虫の数はずいぶん少ない感じがしています
しかし、幼虫を探してみると、不思議と結構いるものです。
いつのまに産卵していたんだろうか...?

アカタテハとクロコノマチョウ

すっかり秋の空気になりました。

気温が低くなると、虫たちは活発に活動することが難しくなります。(だいたい20度くらいが境目でしょうか。)

とはいえ、まだまだ暖かい日には元気に飛び回る蝶が見られることがあります。
むしろ、成虫で越冬するタイプの蝶は、夏よりも姿が目立っているかもしれません。


こちらはアカタテハ
比較的よく見つかるタテハチョウの中まで、玉川上水にもいないはずがない蝶だったのですが、ようやく出会いました。

食草はカラムシ、ヤブマオなどのイラクサ科。ヤブマオは林内で多く見つかります。


このアカタテハ以外にも、近い仲間のキタテハが生息していると思っているのですが、まだ出会えていません。
玉川上水沿いでは、食草であるカナムグラの分布が偏っているのでなかなか出会いにくいのかも。

  
昼過ぎにウロウロしているところに遭遇した蝶。
なにやら見たことのないタテハチョウがいるな、と思って観察していたら翅の表側が黒っぽくて驚く。
調べてみるとクロコノマチョウ
タテハチョウ亜科ではなくジャノメチョウ亜科とのこと。
本来は東京には生息していていなかったのですが、分布を広げつつあるようです。
この蝶も成虫で越冬します。

アカボシゴマダラ


アカボシゴマダラゴマダラチョウに似たタテハチョウ科の蝶の仲間です。

準絶滅危惧種であり、生態系被害防止外来種(旧 要注意外来生物)でもあるというややこしい蝶。
本来国内では奄美大島周辺でのみ見られる蝶なのです。
そのあたりでは数が減りつつあり、その奄美亜種が準絶滅危惧種

しかしなぜか1998年頃より関東で見られるようになりました。
人為的に中国原産の種が持ち込まれた可能性が高いと言われています。(とりあえず2016年現在は。)

玉川上水でも数年前(2008年頃だろうか)より普通に見られる種となりました。

幼虫・さなぎ・成虫の姿形や食性もゴマダラチョウに似ていますが、「アカボシ」の名の通り赤い斑点が翅に見られることが大きな特徴。
口吻は鮮やかな黄色です。


春型は白みがかなり強く、別種のようにも見えます。


ゴマダラチョウと同じく、里山/雑木林環境が適しているようです。
成虫は樹液を好み、カナブン、カブトムシ、クワガタやスズメバチ、ヒカゲチョウと一緒に樹液を吸っている姿をよく見かけました。
9月に入ってからはルリタテハと一緒に樹液周辺でよく見かけています。


アカボシゴマダラの幼虫。
とてもかわいい!

タテハチョウの仲間で成虫の姿の似ている、ゴマダラチョウ、アカボシゴマダラ、オオムラサキ、コムラサキらのグループはみんなこんな雰囲気の幼虫です。
コムラサキの幼虫はヤナギ類が食草ですが、それ以外の3種はエノキ類を食べることも共通しています。

関東に移入してしまったアカボシゴマダラは当然のようにエノキを食べていますが、奄美亜種のアカボシゴマダラはクワノハエノキ(リュウキュウエノキ)を食べるとのこと。海岸近くにも生える沖縄版エノキといったところでしょうか。


アカボシゴマダラの幼虫に限ったことではないのですが、イモムシは脱皮した自分の皮を食べることがあります。
栄養があるのか、外敵から身を守るために自分がそこにいた証拠を消そうとしているのか。


顔部分の抜け殻。
脱いだ皮の体部分はやわらかいのですぐに形が崩れるのですが、顔部分はハッキリと形が残ります。




アカボシゴマダラのさなぎ。玉川上水では比較的よく見かけます。


地上から10数センチほどのササで蛹化していたので驚きました。
わりと低い位置でさなぎになることも多いようです。


羽化した後の抜け殻。
9月中旬の羽化。

おそらくこのくらいのタイミングで成虫になった個体が卵を産んで、次に生まれてくる個体は幼虫のまま越冬するのではないかと思います。(落ちたエノキの葉や樹の幹に張り付いて越冬します。)

 
たぶんアカボシゴマダラの卵。


さて、このアカボシゴマダラが増えたために在来ゴマダラチョウが減っている...という話も聞くのですが、なんともまだ分からない部分もあります。

たしかにエノキを食べるという部分では競合種なのですが。
このアカボシゴマダラが樹の幹でも越冬できるのに対して、ゴマダラチョウやオオムラサキは落ち葉に張り付く形でしか越冬できないと言われています。
つまりは、そのエノキの落ち葉をすべて掃いてしまうような管理の場合、ゴマダラチョウやオオムラサキは生き延びることができません。
さらに、比較的乾燥に強いアカボシゴマダラに比べると、オオムラサキたちは湿潤な林を好むようです。

玉川上水ではそもそも昔から、典型的な里山環境では普通に見られるオオムラサキがほとんど確認されていませんし、アカボシゴマダラが増える前からゴマダラチョウもそれほど多くなかったような感じもあります。
外来種に責任を押し付けたくもなりますが、落ち葉管理や林の環境のほうが大きな問題なのかもしれません。

玉川上水の水路周りにはかなり多くのエノキがありますが、人が普段から通行するために落ち葉を掃かないわけにはいかない部分がほとんどです。
安全柵内の場合は基本的に掃かないものの、急斜面になっている部分が多く、ふかふかに落ち葉が貯まっていくような環境はなかなか作れないのです。
難しい!