玉川上水上水小橋


玉川上水駅から下流側へ徒歩数分、小平監視所を過ぎた後に「上水小橋」があります。
玉川上水では珍しい親水エリア。
そして、再生水(下水の処理水)が流れ始めるスタート地点です。


低い位置から水路を見られるということで、定番の撮影スポットでもあります!
広角レンズできちんと記録した写真が今まで撮れていなかったので、今更ながら撮影。


再生水が流れ始める地点はちょっとした滝のようになっています。
現在、この場所は薄暗くかなりジメジメしていて、シダ植物がたくさん、蚊もたくさんなエリアになっていますが、施工完了直後(1986年)の記録写真を見ると、過去にはかなり明るく開けた環境だったようです。30年間で徐々に暗い環境に変化していったんだと思われます。

エリアガイド『小金井から終点四谷まで』

玉川上水をエリアごとに紹介します!
自然に関する情報を中心に。

今回は、小金井から終点四谷まで。


 小金井から終点四谷までを紹介していきます。現在では、杉並区内、富士見ヶ丘駅付近より下流の水路は一部を除き暗渠となっています。緑地に包まれるような形となっている井の頭公園内を除き、「生物多様性」という観点からはやや厳しい環境の多いエリアかもしれません。

小金井公園周辺


<小金井市内の遊歩道>

 江戸時代、玉川上水沿いに吉野山の桜など全国から取り寄せた山桜が植えられた場所です。いつか江戸・東京随一の桜の名所となり、国の名勝にも指定されました。かつては管理が徹底されていて、桜と低い草本の他にはほぼ植物が見られない状態でした。昭和30年代の写真を見ても、その様子が確認できます。しかし、昭和46年に小平監視所より下流の通水が停止してからは荒廃が進み、法面を中心にケヤキが繁茂するようになり、現在では雑木林に近い環境となっています。生き物たちにとっては以前よりも棲みやすい環境になったかもしれませんが、南北両側が車通りの多い車道になってしまったことで、緑地としては厳しい状態にあります。花見をするのにも、自然観察を行うのにも、今では小金井公園内の方が適しているかもしれません。ただ、放置されたことでの植生の移り変わりや、車通りの多い緑地でどう保全を行っていくべきかなどを考えてもらうのには良い場所ではないでしょうか。

<小金井公園内のソメイヨシノ>

関連記事→玉川上水と小金井の桜


井の頭公園周辺

 吉祥寺駅の南西で、玉川上水は井の頭公園内を通過します。このあたりを流れる玉川上水の周囲では野鳥を中心にかなりたくさんの生き物が見られるのですが、今回は解説を省略します。ここで見られる豊富な動植物は「玉川上水の自然」というより「井の頭公園の自然」として紹介するのがふさわしいのではないかと思います。ところで、小金井から井の頭公園までの間にも独歩の森(境山野緑地)、野鳥の森公園などいくつかの緑地が隣接しています。ただ、規模が小さかったり、手入れが行き届いていなかったりと、「惜しい緑地」が多いと感じます。

髙野 丈『井の頭公園いきもの図鑑』
髙野 丈『井の頭公園いきもの図鑑』

関連記事→野鳥の森公園
関連記事→独歩の森(境山野緑地)


玉川上水公園


 さらに下流へ進むと、暗渠となった玉川上水の地上部に、玉川上水第二公園、玉川上水第三公園など複数の公園が続いています。残念ながらあまり自然度の高い環境ではないのですが、市街地の中でのちょっとした観察会はできる場所だと思います。玉川上水は羽村から終点四谷まで、限られた高低差の中でなんとか水を流すために、また右岸左岸両側から分水を引けるように、なるべく標高の高いところを選んで水路が引かれています。このあたりはそれがかなり分かりやすくなっているので、「地形の観察」も併せて楽しんでほしいエリアです。

内藤新宿分水散歩道


<内藤新宿分水散歩道>

 終点近く、玉川上水の流れに沿って新宿御苑の北側に作られた散策路です。玉川上水の流れそのものではないのですが、玉川上水をイメージして作られた水路となっていて、その周囲でたくさんの野草が見られます。植栽によるものではあるのですが、シュンラン、ニリンソウ、ホタルブクロ、ノカンゾウ、センリョウ、ホトトギス、ノコンギク、キキョウなどなど、まさに「武蔵野の山野草」というイメージのものが数多く植えられています。武蔵野の植生について学ぶ、ミニ観察会には最適な場所ではないでしょうか。道中に設置されたパネルで、玉川上水について学ぶこともできます。ちなみに、新宿御苑内の日本庭園エリアにある玉藻池も、かつては玉川上水の余水が利用されていたようです。

<水道碑記(すいどういしぶみのき)>



 最後のまとめとして。羽村から終点四谷までの水路は全長約43km。ぜひ一度はその全てを歩いてみてほしいと思っています。かなり無理をすると1日で歩くこともできるのですが、2、3日に分けて環境の変化を観察しながら歩くのがオススメです。玉川上水は「多摩川と都心を結ぶグリーンベルト」というような表現をされることもあるのですが、実際に歩いていみると、残念ながら多くの場所で途切れてしまっていることが分かります。これ以上途切れる箇所を増やさないためにも、周辺住民と交流しながら、様々な形で活動を続けていきたいと思っています。

エリアガイド『立川から小平まで』

玉川上水をエリアごとに紹介します!
自然に関する情報を中心に。

今回は、立川から小平まで。


 「玉川上水の自然」を考えるときに、かなり重要となってくるのが立川市内・小平市内の雑木林環境となっているエリアです。どちらもかつては水源が乏しかった土地であり、江戸時代に玉川上水が開削された後に開発されていった場所です。雑木林環境も、その時代から生活のために作られたものであることが明確になっているため、歴史の流れとともに雑木林の仕組みや役割を説明しやすいエリアと言えると思います。さて、自然観察会や散策におすすめの集合場所は2ヶ所あります。

玉川上水駅周辺


<玉川上水駅南口付近>

 立川市内、玉川上水駅は西武拝島線と多摩都市モノレールの接続駅です。駅の南口を出て西へ数メートル歩けば、すぐに雑木林。このあたりは、初夏にゲンジボタルの幻想的な光を楽しめるエリアでもあります。駅を出発してから橋を2つ越えるまで、南北両側に車道がない貴重な区間となっており、歩行者も多くないため、自然の中の音をじっくり聞く観察会には最適です。また、遊歩道にはある程度幅があり、歩道の間に残る藪では多様なつる植物が観察できます。

<遊歩道沿い ササを覆うつる植物>
 そのまま2~3km進んでいくと、桜並木が中心のエリアになります。そこには生き物の気配が少なく、あまり観察会向きの場所ではないのですが、雑木林側から歩いてきた場合「なぜこちらには生き物の気配が少ないのか」と比較して考えてもらうのには良い場所かもしれません。また、雑木林エリアと比べて緑地として完全に劣っているわけではなく、例えば日当たりの良い林床にかなり多くのアマナが見られたりします。


<見影橋付近の桜並木>

・立川市内 玉川上水の簡易地図


A 雑木林エリア  天王橋 以西
 クヌギ、ケヤキの大木が多い雑木林環境です。ある程度は緑地の幅があるものの、積極的な保全活動は行われておらず、動植物のバリエーションに乏しい単調な環境となっています。

B 桜並木エリア  天王橋〜金比羅橋間
 ソメイヨシノやサトザクラが中心の明るく整備された水路です。生き物の住みやすい環境ではありませんが、日当たりの良い法面にアマナ等の野草が数多く開花します。「源五右衛門分水」も引かれており、砂川の文化中心地。歴史的にはとても重要なエリアです。

C 雑木林エリア  金比羅橋〜清願院橋(玉川上水駅)間
 自然という観点では立川市内で最も重要なのがステッチ周辺の雑木林環境です。このあたりだけでも50種近い野鳥を記録しています。野草や昆虫の種類数もかなり多く、大切にしていきたい場所です。玉川上水全体の中で、特にエノキの成木、実生が多いエリアでもあります。

D すっきりとした林のエリア  清願院橋(玉川上水駅)〜小平監視所間
 林の幅が狭く、北側に車道もあるため乾燥しており、動植物の生育にあまり適さない環境です。明るい水路にはカワセミやカワウの他、冬季にマガモが飛来することもあります。



鷹の台駅周辺

 小平市内の最重要ポイントです。駅から南へ歩けば1分ほどで玉川上水へ到着。小平中央公園が隣接し、となりの広い雑木林(通称どんぐり林)もあわせて、イベントやワークショップにも最適な場所です。玉川上水の水路をはさんで、北側、南側に遊歩道があります。いくつかの学校の通学路にもなっている北側は、夏でも涼しさを感じる気持ちの良い散策路となっており、湿潤な林内環境を好む動植物がよく見られます。日当たりがよく車道にも面している南側は乾燥しがちな環境ですが、樹液の出るコナラ・クヌギが多く見つかります。かなりの長さとなっている南向きの林縁は、玉川上水ならではの個性だと思っています。少し東へ進むと、北側に津田塾大学が隣接しています。通常は入ることができないのですが、キャンパス内にスダジイを中心とした状態の良い常緑樹林があり、玉川上水にとっても重要な緑地となっています。  
<小平市内の遊歩道>



 さて、立川市内と小平市を比較すると、緑地に厚みのある小平市内にしか見られない動植物があったり、時にはその逆もあったりしますが、概ね共通していて、その多くはいわゆる「武蔵野の雑木林」で見られる動植物です。樹木はコナラ・クヌギの他、エノキ、ムクノキ、ケヤキにエゴノキやイヌシデが大半を占めており、それらを中心とした生態系が築かれています。野草ではカタクリ、シュンラン、ニリンソウ、キンラン、ギンラン、マヤラン、ヤマユリ、ノカンゾウ、ホトトギス、リンドウなどの他、秋の七種のほとんども見られます。

<シュンランの花>

 これらの野草のいくつかは絶滅危惧種に指定されているものの、まだまだ「あるところでは普通に見られる」植物とも言えると思います。玉川上水には、それが生息しているだけで開発を止めるための大きな説得力となるような希少動物、希少植物は基本的に見られません。ただ、多くの市民が普段から当たり前のように通勤、通学、散歩で利用する緑道の脇に、こういった花が当然のように咲いている環境が今どれだけ現存しているでしょうか。「希少な自然を守る自然保護」とは違う、玉川上水のような場所での「普通の自然を守る自然保護」も、これからの時代に重要になってくるのではないかと考えています。

エリアガイド『玉川上水上流部』

玉川上水をエリアごとに紹介します!
自然に関する情報を中心に。

まずは、上流部(羽村市・福生市・昭島市)。

羽村取水堰周辺


▲羽村取水堰

 最寄りは羽村駅。駅から十数分ほど歩くと羽村取水堰にたどり着きます。ここは、多摩川より玉川上水のための水を取り入れる取水口。玉川上水の出発点です。4月にはたくさんのソメイヨシノが楽しめる桜の名所でもあります。2016年にはこの近辺にイノシシが出没し、ニュースとなりました。多摩川より東側、羽村駅近くは住宅街になっていますが、多摩川より西側、青梅市に近づけば比較的豊かな自然が広がっています。


▲羽村取水堰周辺での『さくらまつり』


▲羽村陣屋跡の陣屋門

 自然を楽しみたい場合、玉川上水方面へ進む以外にも、多摩川の水辺を散策したり、橋を渡って郷土博物館方面に進みハイキングコースを散策したりと、季節や状況に応じて多くの選択肢があることもこのあたりの魅力です。玉川上水沿いに歩いて行った場合しばらくは桜並木が続くため、多様な動植物が見られる環境とは言い難いのですが、下流ではあまり見られない、明るく開けた場所を好む動植物が見られることがあります。木に止まっているサギ類も観察しやすいスポットです。


▲樹上のアオサギ


加美上水公園周辺

 取水堰より30分ほど下流に向かって歩くと、「加美上水公園」にたどり着きます。公園内は、コナラ、クヌギやイヌシデを中心とした典型的な雑木林環境となっています。最近は林床の手入れが進み、キンランやギンランが見られるようになっている他、時期によっては腐生ランも観察できます。東側は玉川上水と隣接、西側は多摩川とつながっていて、環境の違いによる植物相・生物相の変化を観察するのに最適な場所となっています。

▲福生加美上水公園内の林

日本野鳥の会の創立者である中西悟堂の「野鳥村」構想の地でもあり、大切にしていきたい場所です。2016年7月に、公園に隣接する古民家を改装したビジターセンターもオープンしました。

▲中西悟堂「野鳥村」構想の地 プレート



▲ビジターセンター

・みずくらいど公園周辺

 拝島駅付近、玉川上水の開削跡も残る福生市内の公園です。公園内には、バードウォッチングに使える覗き窓付きの壁も設置されています。やはりキンランが見られる程度には手入れが行われているのですが、普段は人の気配が少なく、自然観察会のようなイベントはそれほど積極的に行われていません。今後に期待したい緑地です。公園内には放置されている朽ち木が多く、かなり多くのきのこが見つかります。じっくり探したら面白い菌類が見つかることもあるかもしれません。



 さて、玉川上水沿いの緑地のほとんどは落葉樹を中心とした林になっていて、特に冬は野鳥観察に最適なスポットとなります。ヒヨドリ、ムクドリ、シジュウカラ、ヤマガラ、メジロ、エナガ、オナガといった基本的な野鳥はもちろん、枯木が点在する長い緑道はキツツキ類の住みやすい環境となっています。水路を覗けばコサギ、ダイサギ、アオサギなどのサギ類やカワウの他、カルガモ(冬にはマガモも)、ちょっとした足場があればハクセキレイやキセキレイも飛んで来ます。

▲上流部で見かけることの多いマガモ

 観察会中に狙って見ることは難しいかもしれませんが、カワセミがやってくる頻度も低くはありません。冬鳥として見られるのはジョウビタキ、ルリビタキ、シロハラ、ツグミ、イカル、シメなど。カッコウの仲間や猛禽類はエリアによって見られる種類が変わります。その違いを調査・観察することも面白いと思います。

▲福生市内の玉川上水で見かけたカワセミ

 私(成瀬)は立川や小平エリアの玉川上水を中心に簡易な動植物調査や観察会、講演会等を続けていますが、可能ならば各流域で共同調査・情報交換が行われるような仕組みをいつか整えたいと思っています。上流部での活動があれば、ぜひ教えてください。