おすすめ本|全国雑木林会議編『現代雑木林事典』

現代雑木林事典
全国雑木林会議編『現代雑木林事典』



事典形式ではあるものの、扱っている範囲が広く、項目の数は少なめ。
あまり調べ物をするのには向いていないかもしれません。

例えば、「植物」として単独の記事があるのはアカマツ、アキノキリンソウ、アベマキ、ウバメガシ、クヌギ、コナラ、指標植物、ドングリ、ミズナラ、たったのこれだけ。
気になった身近な植物を少し調べたい、というときには使えるようなものではありません。
そのかわりそれぞれの記事に、その植物の形態だけでなく、利用法や現在の管理の実際など、広いテーマでの記述があります

一人の著者による執筆ではなく、数十人の専門家がそれぞれの記事を担当しています。
イメージとしては、雑木林に関する様々な視点からのコラム集
「論文集」というほど堅い内容ではありません。

パラパラと読んでいけば、雑木林に関するあれこれを楽しく学ぶことができます。

おすすめ本|矢口高雄『トキ』

小さいころ、いちばん夢中になって読んだ漫画は、矢口高雄先生の『釣りキチ三平』だったかもしれません。
活き活きとした自然の描写が何よりの魅力!

大人になってから『釣りキチ三平』以外の作品にも興味を持ち、読むようになりました。
この『トキ』もその一つです。
トキ (fukkan.com)
矢口高雄『トキ』 (fukkan.com)

この漫画、私は文庫版を中古で入手することができたのですが、絶版になっていました。
2011年に復刊ドットコムの投票により、復刊されたようです。


内容は、トキとその周辺の自然を巡る人間ドラマです。
登場人物が農家であることも、作品に深みを与えています。
特に農民とは関係の深い鳥だった。
おらだつが田畑を耕している間は彼らの生活が確保されていたからだ。
その美しい淡紅の羽色から朱鷺色という名も生まれた……

「鳥追い歌」の中にも
おらがいっちの にっくき鳥は
ドウとサギ コスズメ
という形でトキ(ドウ=トキの方言)が登場します。

田畑を踏み荒らす害鳥としてのトキ

佐渡で保護が進められたものの、2003年に日本産のトキが絶滅してしまったことはニュースになりましたね。
中国産トキの人工繁殖が成功し個体数は増えていっているようですが、害鳥でもあった生物を増やしていくことはどのような意味をもつのか。
疑問を持っている方も少なからずいるようです。

個人的な見解としては、遠い未来にどんな結果になろうとも、きちんと記録をつけて、たくさんの人がトキについて考えを巡らせたのなら、そこには大きな価値があると思っているのですが、どうでしょう。

1月の読書記録

日本野鳥の会 監修(1997)『水辺の鳥』北隆館.
日本野鳥の会 監修(1998)『野山の鳥』北隆館.
竹下信雄(1989)『フィールドガイド1 日本の野鳥』小学館.
竹下信雄(1995)『野鳥カタログ』永岡出版.
大作栄一郎,柴田敏隆(1981)『東京の野鳥』東京新聞社出版局.
♪鳥くん(2009)『バードウォッチングの楽しみ方』枻出版社.
日本野鳥の会レンジャー(1992)『あなたもバードウォッチング案内人』財団法人 日本野鳥の会.
日本野鳥の会(1985)『窓をあけたらキミがいる ミニサンクチュアリ入門』財団法人 日本野鳥の会.
安西英明(2008)『基本がわかる野鳥eco図鑑』東洋館出版社.
日本鳥類保護連盟 編(1985)『東京周辺ベスト探鳥地78』日本交通公社.
岩瀬徹 監修(1993)『日本の山野草』成美堂出版.

三浦朱門(2000)『武蔵野ものがたり』集英社新書.
三浦朱門(1982)『武蔵野インディアン』河出書房新社.
高橋敬一(2009)『「自然との共生」というウソ』祥伝社新書.
柳田國男(2011/1940)『野草雑記・野鳥雑記』岩波文庫.
小林照幸(2007)『野の鳥は野に 評伝・中西悟堂』新潮選書.

足田輝一(1977)『雑木林の博物誌』新潮選書.
広井敏男(2001)『雑木林へようこそ!』新日本出版社.
全国雑木林会議 編(2001)『現代雑木林事典』百水社
福嶋司(2006)『森の不思議 森のしくみ』家の光協会.
桜井善雄(1991)『水辺の環境学』新日本出版社.

住 博(2003)『自然をケアする仕事がしたい!』彩流社.
(2000)『自然と環境の全資格ガイド』学習研究社

高森瑞子,涌井良幸(2010)『理科のおさらい 生物』自由国民社.

玉川上水の自然保護を考える会(1995)『活動報告書(平成元年〜平成5年) 』
多摩信用金庫(1976)『多摩のあゆみ Vol.4 特集 玉川上水』多摩信用金庫



*ピックアップ&一言感想

森の不思議 森のしくみ
福嶋司(2006)『森の不思議 森のしくみ』家の光協会.
森や林を中心とした生態系を学ぶ第一歩にとてもおすすめ。
予備知識がなくてもスッキリ読みやすい難易度。
分かりやすい内容だと思う。


雑木林へようこそ!―里山の自然を守る
広井敏男(2001)『雑木林へようこそ!』新日本出版社.
作者自身も本の中に書いているが、やや「武蔵野の雑木林」に内容が偏っている。
武蔵野在住ならば読んでいて共感できる部分が多いと思うし、その逆もあると思う。
少し雑木林を美化しすぎているような感じもあったが、あくまで雑木林は人工のものであり「本来の自然」とは違うこと、人の手を加えず遷移に任せるような方向性もありえることはきちんと紹介されていた。


おとなの楽習11 理科のおさらい生物
高森瑞子,涌井良幸(2010)『理科のおさらい 生物』自由国民社.
中学で学ぶ生物の授業のおさらい。
あらためて読んでみて、中学で習う内容があまりにもマニアックすぎて笑ってしまった。
「理科の授業」が歴史の中でどのように組み立てられていったのか、そしてそのカリキュラムの狙い・目的も全く知らないような状態なので、教育批判をするつもりは全くない。
ただ、この授業を行っても、「『細胞壁』や『ゴルジ体』は知っているけれども身近な植物の名前は知らない」状態になってしまいそうな印象を受けた。
なんとも言えない。


バードウォッチングの楽しみ方(趣味の教科書)
♪鳥くん(2009)『バードウォッチングの楽しみ方』枻出版社.
野鳥観察入門時の一冊として、『基本がわかる野鳥eco図鑑』と並んでおすすめ。
そして、鳥くんが作曲家であることに驚く。(知らなくてすみません。)
本来は「音」との結びつきも強いはずの野鳥。
もっと音楽畑に野鳥愛好家が多くてもいいと思うのですが、なかなか少ないのが現実。
「環境音」というくくりでは興味を持っていたり、実際に野外録音したりする人はいるものの、具体的に野鳥ごとの鳴き声に興味を持ち、その保全に努めようとするような人は圧倒的に少ない感じ。


野の鳥は野に―評伝・中西悟堂 (新潮選書)
小林照幸(2007)『野の鳥は野に 評伝・中西悟堂』新潮選書.
中西悟堂のことは、いつかじっくり知りたいと思っていた。勉強始めの一冊。
人物像も、歴史の流れの中で彼が行ったことも、しっかりと伝わってくる。
ちなみに、多摩のあゆみ 第77号が中西悟堂特集であり、こちらは無料で入手できる。

おすすめ本|基本がわかる野鳥eco図鑑―野鳥がわかると命のつながりが見える

基本がわかる野鳥eco図鑑―野鳥がわかると命のつながりが見える
基本がわかる野鳥eco図鑑―野鳥がわかると命のつながりが見える
安西 英明  東洋館出版社 (2008)

最近初めて読んだ本なのですが、野鳥初心者が最初に買う一冊としてとてもおすすめ

ページごとに写真やイラストと、その種についての解説があるような、いわゆる図鑑らしい図鑑としてのボリュームは控えめです。
といっても、身近な場所で出会える野鳥についての基本的な情報はしっかり押さえてあります。

そもそも、淡々と野鳥を紹介していくような図鑑には、初心者に活かせる情報が少なく、また「探鳥を楽しむ第一歩」の情報も不足している感じがあります。

そこをバッチリ押さえた上で、副題「野鳥がわかると命のつながりが見える」の通り、広く自然への興味を高めていけるような情報もたくさん掲載されています

観察するときの注意点双眼鏡や望遠鏡の使い方・選び方種の見分け方野鳥の基本的な習性など、私自身が野鳥を学び始めた時に知りたかったと思える内容が盛りだくさん。

給餌の是非についての問題や「ヒナを拾わないで」といった話題にも、一方的な価値観を押し付けるわけではなく、多くの価値観があることを紹介しています。

この本に欠点があるとしたら、値段がやや高いこと。2000円超え。(1900円+税)
十分に値段相応の価値があるとは思いますが、となりにもっと安価なポケット図鑑があれば、初心者はそちらを選んでしまいそう。という意味での欠点。


「野鳥が好き」ということは、動物園で動物を見ることやペットとしての動物が好きということとは全く違う意味を持っています。
野鳥の生態に興味を持ち学んでいくことで、広い生態系のつながりを実感することができるのではないかと思います。


野鳥の特筆すべき点は、
・人間とある程度生活リズムが共通している→普段の散歩の中で多くの種類を観察できる
・生態系の上位に位置している→猛禽類は食物連鎖の頂点。種類によって虫、草、魚、種子等幅広い食性
・目と耳で楽しめる→見た目は美術的な美しさがあり、さえずりには音楽的な楽しさがる
・人の生活と共存しやすい→人間にとって危険な種類は少ない
このあたりだと私は考えています。

クマ、イノシシ、サル、タヌキにキツネではこれがうまく機能しません。


自然環境をきちんと手入れすると、虫もやってきます、花も咲いて、魚も泳ぎます。
するとそれを求めて野鳥も集まってきます。この循環が楽しい。


そういったつながりを学ぶための第一歩として、そして野鳥観察を楽しむ第一歩として、とてもおすすめな一冊の紹介でした。