玉川上水とは

玉川上水の写真

玉川上水とは

玉川上水(たまがわじょうすい)は江戸時代(1653年)に開削された人工の上水路です。
現在の羽村市を流れる多摩川から取り入れたその水は、当時飲み水が不足していた江戸市中へ運ばれ、町の発展に大きく貢献しました。

玉川上水 名前の由来は?

羽村から小平監視所(立川市内)までは、今でも飲水を運ぶ現役の水路として利用されています
飲み水を清潔に保つため、かつては下草刈りなどの管理が徹底されていたようですが、現在は水路沿いの大部分が雑木林や桜並木となっています。
本来は自然を楽しむような場所ではなかったはずですが、散策路や通学路として利用する方は多く、市民の憩いの緑地として機能しています。

どこまでが玉川上水?
不完全なグリーンベルト
雑木林は人の手により作られたもの
玉川上水の林のよるストレス
玉川上水と道路計画
玉川上水の自然環境の希少性
国の史跡指定と未来遺産プロジェクト登録

どこまでが玉川上水?

「玉川上水」という言葉は本来、水路そのものを指していたはずです。ところが現在、現地住民が「玉川上水」という言葉を使う時、実際は「玉川上水の水路そのもの」+「水路の法面(の自然)」+「玉川上水脇の遊歩道(の自然)」をあわせた意味合いで使っていることが多いと思います。このブログでもそうです。
そういった広い意味での玉川上水を大事に考えている市民は確かに多いのですが、水路部分のみに特別な関心を持っている方は案外少ないのかもしれません。


不完全なグリーンベルト

玉川上水は「山地(もしくは多摩川)と都心をつなぐグリーンベルト」と表現されることがよくあります。ただ、ぜひ実際に歩いて、もしくはGoogleマップの航空写真などを利用して確認してみてほしいのですが、残念ながらグリーンベルトとしてはかなり不完全なものとなっています。
両岸にほぼ樹木が生えていない場所があったり、南北を通る道路によってあちこち途切れていたり、桜以外の樹木が少ないため多種多様な生き物が住む林としては機能していない場所があったりといった状況です。そもそも生き物の住処として作られたわけではないので仕方のない部分もあるでしょう。今後もさらに道路開発や周囲の畑地・緑地の宅地化が進んでいき、自然環境としては少しずつ劣化していくことが予想されます。

雑木林は人の手により作られたもの

江戸時代の武蔵野ではあちこちに雑木林が作られました。現在ではかなり面積が減ってきていますが、昭和初期くらいまではまだまだ残っていたと思います。それらの林は、新田開発を行うため、コナラ・クヌギなど燃料 / 肥料 / 材木として使いやすい樹木を中心に、人の手によって作られたものでした。そして、利用し続けるためには定期的な手入れが必要でした
玉川上水の水路
玉川上水の周囲で見られる雑木林も同様なのですが、利用しにくい水路際や法面に生えた樹木は人為的なものではなく、種子散布により勝手に広がったものが多いと考えられます。例えば、昭和30年代に小金井市内の玉川上水で撮影された写真には桜以外の樹木がほぼ見当たらないのですが、「昭和46年頃、小平監視所より下流の玉川上水の通水が停止してからはわずか20年ほどで雑然とした雑木林に変わった」という記録が残っています。

玉川上水の林のよるストレス

玉川上水の林によって、ストレスを感じている地域住民もいます。現在では、水路のかなり近くまで住宅が建っているため、大量に舞い落ちる落ち葉や花などの処理に困る場合が多いようです。その他、春から初夏にかけて相当な量が飛散する、コナラ・クヌギやシデの花もやっかいな存在です。

また、当然ながら林の近くでは、洗濯物に虫が付くようなケースも多くなります。畑に舞い散る落ち葉も、作業の邪魔になります。これらの問題のために、住民からの要請によって、家や畑近くの枝が剪定されることがよくあります。「自然環境を最優先した保全」は市民の総意というわけではないということを意識する必要があると思っています。
それとは別に、雑木林を雑木林らしく維持するためには、そもそも定期的な手入れが必要です。本来は、コナラ・クヌギのような樹木は定期的に伐採し、萌芽更新を行うことで健全な林となります。ただ、コストや手間の面で定期的な伐採というのは現実的ではありません。また、玉川上水のような厚みのない緑地での伐採を行うことで、林内が乾燥しすぎてしまう可能性もあります。
重要なのは「切る / 切らない」ではなく、「適切な管理」なのですが、その「適切」の加減が難しい問題です。そして、必要な管理だとしても、極端に木を切られることを嫌う「伐採アレルギー」のようなタイプの住民がいることもややこしい問題です。


玉川上水と道路計画

便利で事故の少ない交通網を望む時、残念ながら玉川上水は非常にやっかいな存在です。なるべく標高の高い所-分水嶺を通る玉川上水は、南北に分水を引くことができ、当然南北両側に村が発展していきました。開発がさらに進んだ現在では、特に水路の南北を快適に移動する需要が高まっています。
実際、東京の西側に住んでいると、東西の移動は便利だが南北の移動が不便、という場面があるはずです。それを快適にするためには、どうしても多摩地域を東西に横切る玉川上水の一部を開発する必要があります
景気対策など、様々な理由でも開発計画は持ち上がってきます。避けられないものもありますし、多くの市民が望む道路計画もあるかもしれません。ただ、無駄な計画がまかり通ることはないようにしたいものです。

玉川上水の自然環境の希少性

自然環境として、玉川上水はどんな場所なのでしょうか。すでに色々な専門家が悪意のない率直な意見として言っていますが、希少性という意味では大したことがありません。ちょっとした都市公園よりはもう少し自然度が高いものの、ここでしか見られない特別な動植物というものはありません。絶滅危惧種や準絶滅危惧種は多少生息していますが、それはある程度の面積を持った緑地ならばどこでも同じ、という見方もできます。
そして、前に述べたように、ここは本来生き物の住処として作られたような場所ではありません。「玉川上水の自然環境を保全したい!」と考える時、その意義はどんなところにあるのでしょうか。
玉川上水の自然を残そうとする「不自然」
玉川上水のキンラン
玉川上水で、武蔵野の雑木林で見られる典型的な動植物が多く見られることは間違いありません。市民が日常的に散策・通学に利用する遊歩道の脇に、当たり前のように毎年アマナやニリンソウ、キンランやギンランが咲いている、こんな緑地が今どれだけ残っているでしょうか。また、その機能は失われつつありますが、やはり生態的回廊の役割も果たしています。安易に「貴重な自然」などと叫んでは欲しくないのと同時に、色々な視点で「玉川上水にしかない価値」があるのではないか、ということを考えていってほしいと思っています。

国の史跡指定と未来遺産プロジェクト登録

玉川上水は2003年、国の史跡に指定されています。開渠部の土木的な価値が評価されたことが大きかったと思います。また、2016年には「プロジェクト未来遺産2016」に「玉川上水・分水網の保全活用プロジェクト」が登録されました。他にも、2017年9月、玉川上水と羽村取水堰が「東京水道名所」に選ばれています。

玉川上水をどのように残していくべきか、一緒に考えていきませんか。