「武蔵野台地と玉川上水の変容」小泉武栄

武蔵野美術大学で行われた、 トーク「玉川上水を探検する」の第一回。


小泉武栄先生による「武蔵野台地と玉川上水の変容」でした。
進行は関野吉晴先生。
4/13(水)18:00~20:00

集まったお客さんはおそらく100人以上
ムサビの学生(おそらく関野先生つながりの学生が中心)と、ご高齢の方(おそらく玉川上水周辺に住んでいる方)が中心。

内容は、玉川上水に関する武蔵野の歴史と自然史について。
まずは広ーく、基礎的な部分のお話でした。
2時間でこれだけの情報量が詰まった玉川上水トークはこれまでにもなかなかなかったものではないかと。

 

ポイントは、玉川上水の雑木林はいかにして形成されたかという部分。

知っての通り、関東の極相林はスダジイ、シラカシによる常緑樹林です。
はるか昔には武蔵野に常緑樹が茂る林があったはず。
それが、縄文時代から火入れが行われ(シカ、イノシシを効率よく狩るため)、いつのまにかススキ野原に変わりました。

平安文学全盛期、和歌に登場する武蔵野のイメージはすでに常緑樹の生い茂る暗い林ではなく、ススキを中心とした野原になっています。

そんな武蔵野に雑木林が増えていったのは、徳川家康公が江戸を治めるようになってから。
まずは江戸を中心に、燃料として活用しやすいコナラ、クヌギが植えられ、玉川上水開削後には西武にも雑木林が増えていきました。

こうして、玉川上水周辺に雑木林が増えていったわけですね。
もちろん、完全に長期間放置すれば、この林も常緑樹林へ遷移していくはずです。

もっとも、雑木林にするために植林したのは、あくまで玉川上水の「周囲」であって、現在のように玉川上水の水路ギリギリまで木が茂っている状態は意図したものではなく、実生などによって少しずつ進行したものだと私は思っています。

ちょっと状況が違いますが、小金井周辺の玉川上水の樹木は、昭和30年代までほぼ植林された桜のみであることが写真で確認できます。それが1971年(昭和46年)に通水が停止してから20年ほどで雑木林といってもいい状態に変化。現在も桜よりケヤキのほうが目立ちます。
そのくらいのスピードで林は変化するのです。


自然保護団体はときに「昔からの自然を〜」という言葉を盾にすることがありますが、雑木林は基本的に人工林。さらに、武蔵野の雑木林は江戸時代に作られた、ある意味では歴史の浅いものはほとんどです。
もちろん「だから保全する価値はない」はずはなく、むしろ生活に密接しながらもたくさんの動植物が生息する現在の玉川上水の林は、とても価値のあるものだと思っています。
ただ、その林がどんな性質のものであるかの認識は必要だと考えています。

APG体系とは

APG体系

植物の勉強をしていく上で、なかなかやっかいな問題です。

基本的に外見的な特徴により分類した、従来の体系に対して、APG体系はDNA解析にもとづいたものになっています

これまではケヤキ、ムクノキ、エノキはまとめてニレ科だったのですが、APG体系ではケヤキのみがニレ科。エノキ、ムクノキはアサ科となりました。
ムクノキ、エノキがニレ科じゃないなんて違和感あり

もちろん、以前の体系が無かったことにはなったわけではありません。
新しく発売される図鑑でも、APG体系による分類ではない場合がけっこうあります。

私が気に入っているポケット図鑑、『都市の樹木433』(岩崎哲也 著)もAPG体系ではなく、クロンキスト体系を採用しています。
その理由については、
生物の"種"は、私たち人間が勝手に区別したものであり、古くから見た目による形態分類が行われてきました。人間が目で見て、種類の違いが分かれば十分だったのです。しかし近年、生物分類を専門とする研究者にとっては、DNAの一部を解説することによって遺伝子分類を行うほうが真実に近いこととされています。形態分類は誤りであるといわれることもあります。しかし、私たちに都市居住者にとって、どちらが正しいということではありません。
としています。

そもそも、植物の専門的な研究家ではない、私たち一般人が図鑑等によって分類を学ぶ目的はなんだろうかとか、そういうことも考えてしまいますね。

個人的には「基本的には古い形態分類で覚えていく。遺伝子分類も補足的な情報として覚えていく」という方針で勉強していくつもりです。
普通の自然観察会の中では、エノキはニレ科として紹介しても問題ないのではないかと思っています。



ケヤキの花


ケヤキの花です!
左上に見えているものが雄花、右下に小さく見える白い花が雌花。

雑木林の構成樹としても、街路樹としてもおなじみのケヤキ。

華やかな花の多い春、そんな中、なかなか気付かれない小さなかわいらしい花をつけています。

さて、この写真、残念ながら玉川上水のケヤキではありません。

ケヤキだけでなく、同じニレ科のムクノキ、エノキ、どれも高い場所に花をつけることが多く、なかなか観察するチャンスがないのです。

見やすい場所に枝が伸びているものがあればいいのだけれど...


 
こちらの写真のほうが分かりやすいのかも。



同じニレ科の仲間、エノキの若葉。

こちらは玉川上水のもの。最近観察を続けています。

トーク「玉川上水を探検する」


玉川上水に関するいくつかのトークイベントが武蔵野美術大学で行われます。
4/13(水)
18:00~20:00
小泉武栄 先生 武蔵野台地と玉川上水の変容
4/18(月)
16:30~18:30
高槻成紀 先生 玉川上水のタヌキを調べる
4/19(火)
18:00~20:00
新里達也 先生 虫の目線で見る世界

すべて無料で予約も不要です。
詳細はこちらで。

貴重なイベントですし、美大の中で無料イベントとして行われることにも大きな意味があると思います。
過去にも玉川上水に関するトークイベント、シンポジウムは何度か開かれていますが、どうしてもその参加者は地域の高齢者が中心になります。

若い学生が少しでも興味を持ってくれたらいいな!

もちろん、武蔵野美術大学に通う学生は、卒業と同時に引っ越し、玉川上水とはほとんど関係のない生活を送ることになる可能性はあります。
ただ、玉川上水に限った話ではなく、「自分の生活と関わりのある地域の自然・歴史との関係」という意味で広く興味を持ってもらえたら、そこから良い連鎖が生まれていく可能性があるのでは。
そう思います。