おすすめ本|高槻 成紀『タヌキ学入門』

タヌキ学入門: かちかち山から3.11まで 身近な野生動物の意外な素顔
高槻 成紀『タヌキ学入門: かちかち山から3.11まで 身近な野生動物の意外な素顔』

生物としてのタヌキについてだけでなく、タヌキ文化についても学ぶことのできる一冊です。
かなり読みやすく、なにより読んでいて楽しい!

生物についての特別な専門知識がない方でも、読み進めていけると思います。
また、タヌキだけに特別な関心がなくても、動物の生態学入門として十分楽しめるものだと思います。
イラストも多め。タヌキのイラストがとてもかわいい!

終盤には玉川上水のタヌキについてのお話もあり
2008年からその翌年にかけてのタヌキ調査記録も掲載されています。(貴重。)

私自身は「玉川上水に住むタヌキの生態」は全く調べることができていないのですが、玉川上水周辺の村に伝わる昔話を調べていく中でやたらと登場する、キツネ、タヌキ、ムジナのことは気になっていて、記事を書きました。
キツネとムジナにやたらと化かされた多摩の農民

玉川上水と関係のある村は、江戸初期~江戸中期に開拓された、ある意味では歴史の浅い村です。
そのため、昔話には誇張された伝説のような要素が少なく、村のリアルな生活がよく伝わってくるものになっています。


中盤の「タヌキの生態学」はとにかく勉強になる内容です。
タヌキが種子散布をしている可能性というのを、私は完全に忘れていました。
玉川上水の林の中には、あきらかに動物によって(糞によって)種子が運ばれて発芽したように見える植物がたくさん見つかります。
それらをすべて野鳥の仕業だと思い込んでいたのですが...タヌキのような哺乳類の可能性もあるわけですね。
おかしな場所から発芽する植物=野鳥が実を食べている植物、と考えて、リストを作ろうかと思っていたのですが、仕切り直し。

「野鳥観察」は自然観察の入門としてよくおすすめされます。
その理由は、植物とも関係が深いため生態系のつながりを学びやすいこともありますが、人間と生活時間が概ね一致しているため観察しやすいことも大きな理由です。
それに対してタヌキのような動物は、特別な調査をしない限り、その生活ぶりが見えてきません。
だからといって、林の保全を考える時に、タヌキのことを決して忘れてはいけない。そうあらためて、考えさせられました。
観察しやすいものだけに注目していても、見えてこないことがたくさんある!


まだまだ、何度も読み返して、また感想を追記します。